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組織ブランディングの第一歩

ブランドの力で組織を変革するヒントが得られる Brandge(Brand × Change)の第2回目の投稿は「組織ブランディングとは何か」です。

ブランドには大きく分けて、2種類のアプローチが存在します。1つ目は顧客や株主といった外部のステークホルダーに対してブランディングを行うアウター・ブランディング、2つ目は従業員やグループ会社関係者などの組織内部のステークホルダーに対してブランディングを行うインナーブランディングです。

「ブランドとは、企業の写し鏡である。」と比喩されることがありますが、どれだけ素晴らしい広報やPRを行ったとしても、その価値自体が優れていなければ一時的な成果で終わってしまい、効果が持続することはありません。

また、ブランドの価値を育み、それを外に伝えていく役割を果たすのは、紛れもなくそこで働く社員です。社員がどんな理念を追求し、日々どのような想いをもって働いているかが競争力の源泉となる価値を生み出すのです。

今回は競争力の源泉となる価値を創出し、結果的に企業の飛躍的な成長を実現する社員・組織をいかにブランディングするべきか、またその必要性について解説していきます。

第一回投稿 では「ブランドとは何か?」という基礎知識にも触れていますので、初めから見たい方はこちらも重ねてご覧ください。

組織ブランディングの重要性

有名な話ですが、組織ブランディングの効果が表れた最たる例としてアップルとマイクロソフトの製品開発の違いが挙げられるでしょう。B&Cのパートナーを務めるマイケル・マンキス氏はこちらの記事でこう綴っています。

「”アップルは、600人のエリート社員を動員して2年足らずで『iOS 10』を開発し大成功を収めました。対照的に、マイクロソフトは10,000人もの社員を動員し、5年以上もかけて『Vista』を開発したにもかかわらず、最終的にサポートを終了することになったのです”」

この2社は今では世界を代表するカンパニーとして肩を並べており、そこに集う社員も優秀な方が多いと言われています。その中でなぜこれだけ明らかな差を生んだのか?その答えの1つに組織ブランディングの成果があります。

引用した記事の結論には、戦略的な人事配置がその差を生み出した主たる要因であると書かれており、その結果として目まぐるしい生産性向上を実現し、少数精鋭組織の中で偉大な功績を生み出したと分析しています。

確かに米国においては新卒採用においても総合職採用というような枠組みではなく、専門性や強みが生かせるジョブ型採用の慣習が一般的であり、それによって効率的に成果を生み出す組織が構築できるという側面が大きいと言えますが、例え強みを生かせる環境にアサインされたとしても、そこで世の中を変えるようなイノベーティブな価値を生み出せるかどうかは分かりません。また、米国ではキャリアアップが当たり前の雇用慣習であり、転職が非常に活発的です。そういった背景から、優秀な人たちが一つの組織に定着してくれる可能性も高いとは言い切れないのです。

では、一体何が優秀な人たちを採用し、定着化させた上で価値を生み出す成果をあげ続けることを実現したのか?

それこそが企業の存在価値ともいえる『企業理念』です。この企業理念は多くの社員にとって、本質的にその組織に居続ける理由となり得るものであり、様々なバックグラウンドを持った人たちを1つの方向性にまとめあげることができる唯一の指標であるのです。

アップルは先に挙げられた組織生産性が高いことに加え、世界最高のブランドを持つ会社としても認知されています。そのブランドストーリーを辿っていくと、アップルを創業したスティーブ・ジョブスが残した数々の社員に向けたメッセージや、一貫性のある製品開発のコンセプト等、自分達が何者であり、どんな価値を世の中に届ける使命をもっているのか、といったことが組織内で幾度となく共有され、それが組織カルチャーに根付いてきたことが特徴的です。まさにそれこそがアップルらしい組織ブランディングであるのです。(その過程では逆にブランド理念と相反する勢力が立ちはだかり、一時スティーブジョブスが外に出されたのも有名な話です)

つまり当時のアップルでは戦略的な人事配置といった戦略人事のパフォーマンスに、紆余曲折がありつつも最終的には、全社的に共通されたブランド理念が、組織カルチャーとして一人ひとりの社員に根付いていたことが、圧倒的な成果を生んだ要因となったのです。

この通り、例え人員配置を工夫したり、優秀と評価される社員を採用できたとしても組織に定着化したり、企業成長に繋がる価値を生み出さなければ戦略としては効果的ではないのです。だからこそ、そこで働く一人ひとりの力を最大化し、企業の成長リンクさせるための取り組みとして、組織(インナー)ブランディングという手法が欠かせないものになっているのです。

組織ブランディングの施策

組織ブランディングのゴールは、社員一人ひとりの個人理念と組織理念を適合させ、個人理念を追求することが組織理念の達成、ひいては企業成長の実現に繋がる組織を創り上げることであります。

その為、取り組むべきアプローチとしては、この3つが挙げられます。

  • 社員一人ひとりの個人理念を開発・成長させる仕組みを作ること
  • 企業理念を伝え続け、組織に浸透させる仕組みを作ること
  • 個人理念と企業理念がリンクする仕組みを作ること
  • それぞれ解説していきます。

    1.社員一人ひとりの個人理念を開発・成長させる仕組みを作ること

    大前提として人の価値観を形成したり、さらには変化させることは非常に困難です。だからこそ、最終的に個人理念と組織理念がリンクできるような理念の原石をもつ社員を見抜き、採用する仕組みづくりがなければなりません。(※この点は組織ブランディングではなく、採用ブランディングの取り組みとなるのでここでは割愛します)

    そもそも理念と呼ばれる概念は「それが何者であるのか」という存在意義を表すものであり、具体的には「WHY(なぜ存在するのか)」という問いを自分なりに構築していけるような機会を提供することが活動のメインです。

    具体的には以下のようなアプローチが考えられるでしょう。

  • OKRによる目標制度を導入し、抽象的な問いを立てる習慣を作る
  • 管理職がコーチング理論を学び、社員をコーチングする文化を作る
  • 社員の意見・起案が戦略に取り入れられる機会を運営する
  • 社員の意見・起案が成果を出した際に表彰する機会を運営する
  • 自らのやりたいことが自由に話せる心理的安全性を追求する
  • 積極的に社外イベントや講演等の視野が広がる機会を提供する
  • Value Card等の自己理解に繋がるゲーム機会を提供する
  • 自己啓発セミナーを開催する
  • 個人の理念は単発的な機会で教えられたからといって形成されるものではなく、日常的な活動の中で意識的に取り組み、様々な視座視点で物事や情報を吸収していく過程で養われていくものです。また何より、自分自身にベクトルを向けた会話が許容されるような組織風土でなければ、いくら芽が生まれたとしてもすぐに刈り取られてしまいます。そういったことを総合的に勘案し、個人理念が育まれる環境づくりを意識してみましょう。

    2. 企業理念を伝え続け、組織に浸透させる仕組みを作ること

    次に企業理念を組織に浸透させていく仕組みづくりです。どのような企業であっても法人登記の際には企業の目的や理念にあたる部分を言語化することになるので、その存在自体はあると思いますが、組織規模が大きくなればなるほど意識的に取り組まなければ理念は浸透されません。

    企業理念が浸透された組織では、意思決定のスピードが圧倒的に向上します。なぜなら担当者から管理職に至るまで何を軸に物事を考え、何を大切にし、何をしてはいけないのかが理解されている状態となるので、組織の方向性と異なった提案が生まれにくくなるからです。

    そういった組織作りのためには以下のようなアプローチが考えられるでしょう。

  • ミッション・ビジョン・バリューの言語化・クリエイティブ化
  • 創業ストーリーを整理したコーポレートムービーやサイトの作成
  • 社長をはじめとした経営層と現場の会話量を増やす機会の導入
  • 企業理念を評価指標とした人事制度・社内イベントの企画
  • オフィスの目に入りやすい位置に理念を掲示する
  • 社内報や社内用サイトでの特集企画を行う
  • オウンドメディアの運営を行う
  • 理念を体現した成果やクリエイティブの積極的露出
  • 組織サーベイ等で成果モニタリングとPDCAの推進
  • 打つべき施策は様々に存在しますが、最も効果が生む取り組みは理念を体現する社長自らが率先して活動を行い、社員に対して自らの言葉で伝え続けることです。個人理念の開発はボトムアップ型の取り組みですが、企業理念の浸透は基本的にトップダウンアプローチをとります。何よりも経営層が体現するという姿勢は忘れないようにしましょう。

    3. 個人理念と企業理念がリンクする仕組みを作ること

    最後に取り組むのは個人理念と企業理念がリンクする仕組みを作ることです。この工程が抜けてしまうと、純粋に理念のぶつけ合いのようなことになってしまい、双方的に理念追求という行動は生まれるものの、その活動が企業成長という成果に繋がらなくなってしまいます。この活動は非常に定性的な観点が多いため、常に活動によって成果に繋がっているかどうかは確認するのが良いでしょう。(※ただし短期的に成果に繋がる概念でもないため、成果回収を焦って活動を取りやめてしまう等の行動には注意しましょう)

    ここでの具体的アプローチとしては下記が考えられるでしょう。

  • 個人理念の追求によって、企業成長を実現した成功事例の全社的共有
  • 1on1面談等での定期的な摺り合わせ・フィードバック
  • 社内公募制のジョブポスティング制度の導入
  • 社内プロジェクトの発足と人財のアサイン
  • 経営者とのディスカッションイベントの開催
  • 社内情報のオープン化、戦略・戦術の具体化
  • リンクさせる、つまり個人理念と企業理念を摺り合わせるためには、双方向のコミュニケーションが欠かせません。また社内の情報がオープン化されていなければ、自らの理念追求を会社のどの戦略部分にリンクさせて良いのかが分からず、立ち止まってしまう要因ともなります。社員の一人ひとりが「この会社のために、自分が何かできるか?」という問いを十分に考えられる機会を提供し、それを具体的に実現させてあげられる制度の構築が望ましいと言えるでしょう。

    他社や知人等に「〇〇さんって、●●社の人らしさがあるね」と言われるようになれば成果を具体的に実感できるレベルになるでしょう。

    組織ブランディングの推進

    さて最後に、ここまで組織ブランドの重要性や施策の具体例等を紹介してきましたが、推進にあたって配慮するべき点について解説します。

    まず活動を推進する上で最も考えておくべきことは、組織課題は事業課題から遅れて顕在化してくるという点です。具体的には事業進捗がよく、業績が順調に成長している間はそこまで組織ブランドを意識しなくとも問題が発生しにくいのですが、事業が行き詰まったり何らか企業存続において問題となる要因が発生した場合に組織ブランドが構築されていないと、一気に組織崩壊に拍車がかかっていくようになるのです。

    最近の例でいえば、新型コロナウィルスの影響によって様々な業界において業績停滞・低迷を招いた企業が散見されましたが、組織ブランドを構築できていた企業はこの難局に対して一層一致団結意識を持ち、問題の早期解決化に動き出すことができていましたが、一方で組織ブランドが構築されていない企業では従業員の離反が起きたり、テレワークを良いことに活動停滞が起こったりと様々な組織課題を誘発する結果となりました。

    このようにブランドのような無形資産にあたる部分は、調子がいい時には感じにくく、課題が顕在化したときにその有無がハッキリと分かれるものとなります。

    これから企業経営においては業界構造を再編するような様々な変革が求められていきますが、そういった急激な変化に対して社員一人ひとりが理念を追求する担い手となってくれるのか、それとも早々に諦めて競合他社に転職していってしまうのか、あなたの企業はどちらの社員が多いと思いますか?

    組織ブランディングを始めるきっかけは様々ですが、労働者にとっては雇用がどんどんと自由化し、国内だけでなく国外での活躍環境も拡大化していく中で、いかに優秀な人財を採用し続け、競合他社を上回る価値を創出していけるかが企業成長において非常に重要な焦点となっており、どのような企業であっても活動推進は欠かせない状態になっています。

    もし未だその活動を考えられていないのであれば、是非この記事を第一歩目として組織ブランディングへのきっかけを持ち帰って頂ければ幸いです。それでは。

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