近年注目されている「採用ブランディング」。
売り手市場が加速し、優秀な人材や会社にマッチする人材の獲得が困難になるとともに、終身雇用が事実上崩壊し始め、採用後の定着についても積極的なアプローチが必要となっていることが背景にあります。
しかしながら、採用ブランディングが単なるトレンドとして取り扱われることも散見され、その定義も紹介される場所によって多種多様であるという状況です。
そこで本記事では、採用ブランディングの定義から、その取り組み、期待できる成果などの情報をご紹介したいと思います。
採用ブランディングとは
採用ブランディングとは、就職先として自社を選んでもらうために「ブランド」を構築していくことを指します。
「ブランド」とは、一言で言うと対象者から区別されていることです。
「日本を代表する化粧品メーカーといえばA社」というように、消費者から想起されるネームバリューを持つ企業や製品があります。
また、「コスパのいいコスメといえばB社」「素材にこだわっていて安心感があるのはC社」というように具体的なイメージで想起されるメーカーもあるでしょう。
ブランドとは、単に認知されていることではなく、対象者から「区別されること」であり、その区別が選ばれる理由となるのです。
採用におけるブランドとは「A社といえば〇〇」という認識を候補者に持ってもらい、働く場として魅力を感じてもらうためのものです。
採用ブランディングを行うことのゴールとは、自社のターゲットとなる候補者が、自社らしさに共感した上で、自社を最も就職したい会社だと思ってもらうことです。
採用ブランディングが必要となっている背景
なぜ今採用ブランディングが注目されているのでしょうか。
その要因の一つは、採用競争の激化です。
少子高齢化が進み採用市場は売り手市場へとシフトし、自社に合った人材の確保が困難になっています。
また、転職を前提としたキャリア形成など、終身雇用の崩壊に伴い、人材の定着に関わる取り組みも重要性を増しています。
さらに、SNSやインターネットを通して候補者は膨大な情報を得ることが可能になっているため適切な情報やイメージを届けるために採用ブランディングが注目されているという背景があります。
採用ブランディングのメリット
採用ブランディングを行うことのメリットは大きく分けて4つあります。
・応募者の質の向上
・競合企業との差別化
・中長期的に効果が見込める
・コストが抑えられる
応募者の質の向上
先にも述べたように、採用ブランディングのゴールは「自社のターゲットとなる候補者が自社らしさに共感した上で、自社を最も就職したい会社だと思ってもらうこと」です。
自社らしさに共感した上で会社を選ぶ候補者が増えると、自社に合った人材の応募が増え、採用後のミスマッチも少なくなります。自社に共感して選んだ候補者であれば、入社後に活躍する可能性も高くなることでしょう。
採用ブランディングは、候補者の質の向上にもつながるのです。
競合企業との差別化
採用ブランディングでは、自社ならではの魅力や選ばれる理由を明確にし、候補者に伝えていきます。このような自社ならではの魅力は、候補者が自社を志望する際や最終的な意思決定をする際の決め手になります。
中長期的に効果が見込める
採用ブランディングの効果は中長期的に継続します。
例えば、新卒採用の段階でブランド構築ができていれば、仮にそのタイミングで対象者が入社しなくとも、社会人になってからの副業や転職先の候補に考えてもらえる可能性が高くなります。
昨今は社会人3年以内の早期転職も増えてきており、中長期的に効果の継続するブランド構築が重要性を増してきているといえるでしょう。
採用コストが抑えられる
採用ブランディングは、広告費用を投下して幅広く認知を獲得する従来の手法とは異なります。
ターゲットとなる人材に対し、自社のサイトやSNSを駆使してブランドを構築していくため、低予算で効率的に効果をあげることが可能です。
採用ブランディングを通して対象者の共感を集めることができれば、口コミやSNS等を通して拡散されることもあり、自社の考えに共感する候補者が自然と集まってくるのです。
採用ブランディングのデメリット
この通りメリットの多い採用ブランディングですが、なぜ全社が行わないのでしょうか。
それは、中長期的かつ全社的に取り組む必要のある施策であるため、難易度が高いことに起因します。
採用ブランディングを行う上で難しいポイントは大きく分けて以下の二つです。
・全社規模で取り組む必要がある
・中長期的なコミットが求められる
・採用活動における優先順位を上げることが難しい
全社規模で取り組む必要がある
採用ブランディングは、採用チームだけでなく全社規模で取り組む必要のある活動です。
その理由は採用ブランディングにおいて一貫性が重要であるためです。
どんなに素晴らしい理念を打ち出していても、採用説明会やHPで発している自社らしさと、OBOG訪問などで現場社員が発する自社らしさが相違していたら、不信感を抱かれてしまいます。
一方で、どの社員と会っても同じ理念や目標で働いているという体験が得られたことが、入社の決定打となることも多いのです。
採用におけるブランドは、経営層から全従業員までの企業理念に対する認識を統一し、それぞれが実践して初めて築き上げることができるのです。
中長期的なコミットが求められる
ブランドは言い換えれば記憶の蓄積とも言えます。
すなわち、持続的な接点があればあるほど強いイメージとなる一方で、一度強い体験を与えたとしても次第にそのイメージは薄くなっていってしまいます。ブランドとして区別されている状態であったとしても、持続的にブランド価値を守っていくための活動を行うことが重要です。
また、ブランドが構築できていない状態からスタートする場合は、新たな印象を定着させていかなければなりません。そのためには、根気強くメッセージを伝え続けていくことが求められます。ブランドは一朝一夕ではなく、守り育て上げていくものなのです。
採用活動における優先順位を上げることが難しい
採用ブランディングは、母集団形成や選考などの採用活動上必須となる業務とは異なり、かならずしも必要な業務ではありません。
そのため、採用ブランディングを始めようと思っても優先順位を上げることができず、予算がかけられないというケースも見られます。
採用ブランディングを始めようとしている方は、以下のポイントに気をつけて、採用関連施策の優先順位を整理するようにしましょう。
・緊急度・重要度の高い施策を整理し、それぞれの予算とリソースを確保するような計画づくりをする
・短期と長期の効果を分けて考えて、それぞれの施策案を検討する
採用ブランディングは長期施策
施策を整理したり経営層とすり合わせた結果、採用ブランディングをやるべきなのかという議論になることもあるでしょう。
「今採用が上手くいっていると思っていても、5年後も同じ成果が続くと思いますか?」
「また社内を見渡した時に本当に採用した人材がいきいきと活躍していますか?」
という問いに、自信を持ってyesと答えられるのなら、やる必要はないでしょう。
しかし採用は常に売り手市場であり、競争環境に晒されています。
採用ブランディングとは、そうした状況の中で長期的に勝っていくための施策なのです。
長期的な採用戦略を見据えて、採用ブランディングの必要性を検討するようにしましょう。
採用ブランディングを行う際のポイント
次に、実際に採用ブランディングを行う際に注意したい4つのポイントについて解説していきます。
・認知されてから選ばれるまでのストーリーを設計する
・広告のイメージと社員の抱いているイメージを統一する
・対象者のインサイトをコンテンツに反映する
・ブランディングとマーケティングの違いを意識する
認知されてから選ばれるまでのストーリーを設計する
採用ブランディングに取り組もうとされている方の中には「採用ブランディング=認知施策」と考えている方も少なくありません。
しかしながら、認知の段階にこだわりすぎるのではなく、認知以降の接触機会を設計することや、それぞれの段階で発信しているメッセージに一貫性を持たせることが重要です。
広告やクリエイティブに非常に力を入れて、候補者を惹きつけ、さらに共感を得ることができたとします。しかし、面接担当者が広告の内容とは真逆のことを言っていたらどうでしょうか。候補者の期待は裏切られてしまうことでしょう。
採用ブランディングとは、ただ魅力的なブランドを構築してそれを広告する、押し出すということではありません。
社内の人間との会話やインターン、選考などを含めた候補者の体験のなかで、一貫してメッセージを伝えられるようなストーリー設計が欠かせないのです。
等身大・真実を伝える
人事部が作成した広告やPRに掲出されている文章・イメージと、実際に現場で働く社員が思っているイメージに相違があり、そのギャップを知ってしまった対象者からブランドの信頼が失われるケースもあります。
たとえ一時的に誤解した情報に共感して入社してくれたとしても、本質のギャップを感じてしまえば早期退職や、就業意欲の低下は免れません。等身大であり、真実である情報を伝えていくことを意識しましょう。
対象者のインサイトをコンテンツに反映する
企業が顧客に対してサービスや商品を提供する際に、企業側が想定しているものとは異なる価値を顧客が見出していることがあります。
この認識のズレを企業側が認識することができれば、企業は顧客のニーズにより的確に答えることができます。
※顧客に提供する価値のことを「バリュープロポジション」といい、認識のズレを修正するためのフレームワークとして「バリュープロポジションキャンバス」があります。
採用ブランディングにおいても、広告制作物などを作る際、相手に伝わるものではなく、自分たちが作りたいものを作ってしまっているというケースが散見されます。
企業の伝えたいことと対象者が抱いている感情には一定のギャップが存在します。対象者の感情をきちんと知り、そのギャップを埋める表現やコミュニケーションを意識することが重要なのです。
対象者のインサイトを知るには、1on1インタビューやグループインタビュー、ソーシャルリスニング等の手法がありますが、明らかにしたい内容によって使いわけましょう。
ブランディングとマーケティングの違いを意識する
採用マーケティングでは、“行動変容”に着目することが一般的です。具体的には、採用広告をいくつか用意して、それぞれの反応率やそこからの説明会の予約率、参加率や応募率といった指標に着目します。
一方採用ブランディングは、対象者の”思考変容”に着目します。マーケティングは顕在層に対するアプローチ、ブランディングは潜在層に対するアプローチという分け方も可能と言えるでしょう。
マーケティングでは、例えば未だ自社に興味関心がなく、そもそも認知すらしていない人の行動評価を行うことはできません。一方で採用ブランディングでは、今は行動には繋がらない(≒繋げられない)が、将来的に自社に興味関心を持ってもらうために、対象者の「思考」を変化させることに活動の目的があります。
ブランディングの目的を短期的な説明会動員数等にフォーカスしすぎると、思うような結果が得られずにプロジェクト終了となってしまいます。
具体的にどんな指標を置くべきは企業フェーズや取り巻く環境によって多種多様ではありますが、「ブランディングを何の目的で行うのか?」という前提認識は擦り合わせておくことが重要と言えるでしょう。
組織戦略を担う方へ
最後に、採用ブランディングの成功の秘訣をお伝えします。
それは採用ブランディングを推進する方が、自社をより良くしたいと強く思い続けることです。
よく「ブランディングの重要性は理解し、やっていきたいと思うものの、それを経営層に納得してもらうことが難しい」と相談を受けることが多いです。
勿論会社をあげて取り組むべき活動であるので、巻き込む人の数も規模も大きく、その実現可能性を蓋然性高く提案することは難しいでしょう。
しかし、これまで説明した通り、ブランドを構築するためには高い理念を抱き、一貫性を持って持続的に活動していく必要があります。その効果を組織に与えるためには、まず自分自身がそれを体現する必要があるのです。
ブランディングが成功して世界で評価を受ける会社も、最初は小さく誰にも知られていない企業だったのです。今、もしあなたが組織戦略を担う立場にあるのであれば、あなたが志す理念とそれを実行し続ける結果が数年、数十年後の自社の価値に直結することでしょう。
しかし、それを成し遂げるにはチームが必要です。もしこの記事を読んで、採用ブランディングに興味をもっていただけたなら、当サイトを運営するGame Changer合同会社にお気軽にご相談ください。共に自社をより良いものにしていきましょう。